皮膚筋炎・多発性筋炎とは その3


皮膚筋炎・多発性筋炎は当初筋肉(骨格筋)だけが障害される疾患と考えられていましたが、肺、心臓、関節、消化管、などの他の臓器障害も合併することがあり、膠原病や自己免疫疾患(自分の身体に対する抗体などを持ち、免疫の異常がその病因と考えられる疾患)の一つに分類されています。


検査成績

炎の診断は、まず診察で筋力テストを行い、体幹の筋力の低下を確認します。生理学的検査では、針筋電図が行なわれます。これは、筋肉に針を刺して、電気的な変化をとらえる検査で、多少痛みを伴いますが、診断には重要です。最近は、 MRI(磁気共鳴像)にて、筋肉の炎症をある程度とらえることもできるようになりました。筋炎の診断には、生検も欠かせません。筋肉の組織を調べ、そこに炎症性の筋の変性や壊死があるかを調べます。

血液では、筋原性酵素と言われ、炎症で筋肉が破壊された結果、血液に筋肉の酵素が放出されます。それをとらえて、筋の障害状態を評価します。 CK, LDH, GOT, GTP,アルドラーゼ、ミオグロブリンなどがあります。しかし、 GOT、GPTだけを測ってしまうと、一見肝炎のようにみえ、肝炎と診断されてしまうことも時にあります。

膠原病では、多くこの疾患で抗核抗体などの自己抗体がみられます。筋炎でも、抗アミノアシル tRNA合成酵素( ARS)抗体がみられ、その代表が抗 Jo-1抗体です。この抗体が陽性の場合は、多発性筋炎、多発関節炎、慢性の間質性肺炎がみられやすくなります。そのため Jo-1症候群と呼ばれることもあります。抗 ARS抗体には、 PL-7, PL-11抗体もあり、ほぼ同様の症状がみられます。一方、抗 SRP抗体は抗 ARS抗体とことなり、多発性筋炎でも、発熱、関節炎、間質性肺炎などが少なく、逆に心筋病変がみられやすく、筋炎も治療抵抗性と言われています。抗 CADM-140抗体は無筋症性皮膚筋炎に特徴的な自己抗体であることが、わかって来ています。さらに、抗 Mi-2抗体、抗 PM-scl抗体、抗 Ku抗体、抗 U1RNP抗体もみられ、筋炎の病型分類に役立つことが来されています。


治 療

○一般的治療

発症時はできるだけ安静にし、筋肉に負担をかけないようにすることが大切です。身体のこわばり、動作の不自由さ・筋力の回復のためには、リハビリテーション、理学療法は重要です。しかし、何時から開始し、どの程度を行うことがよいかは難しい問題で結論は得られてなく、患者さんの病状により、それぞれ対応する必要があります。一般的に筋原性酵素( CK値)が薬物療法により低下し正常値に近くなり、筋力が順調に回復していることを確認してから、徐々にリハビリを開始します。

 

○薬物療法

副腎ステロイド薬 

本症の治療は薬物療法が中心となります。主に副腎皮質ステロイド剤(ステロイド)が使用され効果的です。一般に大量ステロイド療法 (体重 1kgあたりプレドニゾロン換算で 1mg/日)が 4-6週間行われ、筋力の回復、検査所見の改善を見ながらゆっくりと、最小必要量(維持量)まで減量されます。急速な減量は再発をきたすことがあります。一般に、筋力の回復は発病後の治療開始が早いものほど良いとされています。 しかし、ステロイドが無効であったり、薬の副作用が著しく出てしまう場合には、免疫抑制薬の併用されることがあります。

免疫抑制薬

1970年代から使用されていましたが、最近は、ステロイド薬と免疫抑制薬とを併用することが多くなっています。免疫抑制薬にはステロイド薬とはことなる副作用があり、その効果の発現もステロイド薬よりは遅く、期間を要します。しかし、間質性肺炎にはシクロスポリンが有効とする報告もありますが、多数例での十分な検証はできていません。シクロスポリンと類似した作用をもつ国産のタクロリムスも使用されています。その他、免疫抑制薬もステロイド減量の補助薬として使用される場合もあります。

 

○新しい治療

γグロブリンの大量療法が、ステロイド抵抗性の筋炎に有効とする報告が有り、日本でも検証が現在行われていますが、まだ、明確な結果は出ていません。ステロイド薬とは異なり副作用が少ない点が利点ですが、今後の研究成果が待たれるところです。 一方、リウマチの治療で注目されている生物学的製剤があります。これには、炎症の原因となる物質である TNFを抑制する抗 TNF製剤(レミケード R)や、自己抗体を作り出す細胞であるリンパ球のB細胞に対するモノクルナール抗体(リツキサン R)を治療に行われ、一部で成果も報告されています。しかし、これらは、まだ試験的な症例での報告なので多数例での検証が待たれます。

経 過

筋炎に対するステロイド療法の効果は大多数( 75-85%)の患者さんでみられ、日常生活が可能となります。生命予後は、悪性腫瘍、感染症、心肺合併症(物を飲み込む運動の障害による誤嚥性肺炎、呼吸筋障害による呼吸不全、心筋障害による心不全など)により左右されます。悪性腫瘍の合併のないものは生命予後は比較的良好で、 5年生存率 90%、 10年生存率 80%とされています。しかし,その経過は個々の患者さんにより異なります。現在、一番問題となっているのが肺に炎症を起こし呼吸困難をきたす間質性肺炎で、とくにその急激に進行するタイプ(急性間質性肺炎)です。

 

日常生活の注意

タバコは絶対にやめましょう。血流を悪くしたり、肺の症状を進行させたりする作用があるからです。

大部分の患者さんは、通常の日常生活を送るのに問題はありません。でも、激しい運動や疲労を残すような無理な活動は避けましょう。

皮膚筋炎では、紫外線により皮疹が悪化することがあります。 3月から 10月の紫外線の強い時期は、外出時には、紫外線防止クリーム (SP30以上)を利用しましょう。

手足の末梢の血流に障害があることが多いので、小さな傷がなおりにくいという問題をかかえています。たとえ、ほんのちょっとした傷でも消毒をきちんとするようにし、さらに状況に応じて早めに相談するようにしてください。

一般に消化のよい食べやすいものを選んで十分な栄養をとって下さい。例外として治療で副腎皮質ホルモンを内服している人は、副作用で体重が増えすぎることがあるので、カロリーを計算してバランスのよい食事をとってください。

入浴は血行を改善したり、精神的緊張をときほぐす作用があるので有用です。小さな傷や潰瘍がある場合は、入浴後シャワーで洗い流し、すぐに消毒・保護しましょう。心配な方は、主治医にご相談下さい。

筋炎の患者さんに対して知人、友人のかたが、特殊な治療や健康増進法などを勧めることがあると思います。漢方療法、運動療法、自然食品、特殊なマッサージ、新興宗教と関連した治療などさまざまです。一概には、これらのすべてがまったく意味のないものとは言えませんが、営利を目的とし、科学的な根拠がないもの、危険なものが混じっていることもあります。まずは、主治医に相談してみましょう。